教育支援産業、いわゆる塾の世界は「やる気, 自立/自律学習」といった言葉が大好きです。「子供達がやる気を持って、保護者の方や先生に言われるまでもなく、自分で勉強するようになることを目指す」という意味です。でも、実際には少し不思議な目標ではあるのです。
「社員がやる気を持って、上司や顧客に言われるまでもなく、自ら率先して仕事に取り組むことを願う」という言葉、周囲にあふれていませんか。書店には、社員や自分を教育するための啓発本, 経営書, 実用書が山ほど積まれています。さらに不思議なことには、既に山ほど出版されているのに、毎月毎月新しく出版され続けています。
つまり、未だに解決方法が分かっておらず、しかも解決がとても困難な問題ということです。…そして少し虫が良い。他人を意のままに動かすにはどうすれば良いのか、という話であるためです。そもそも自分自身の「やる気,自律/自立」を正面切って問われれば、どことなく気恥ずかしく、少し口ごもってしまうタイプの問題でもあります。
ところで、私が親しんでいる職人の世界では「(取り)掛かれば(手が)動く」という言葉があります。小学生や中学生でも, そして私たち大人であれば尚更に、「取り掛かること/手を付けること」こそが苦痛の源だと知っています。逆に仕事の方法さえ知っていれば、取り掛かった後、意外と簡単に仕事が進んでしまうことも知っています。
「やる気, 自律/自立」以上に大事なこと、それは2つです。
1.まず手を付けること。塾は「家」とは異なる空間です。ですから、手を付けやすい。大人にとっての仕事場のようなものです。ですから、できる限り解放して、いつでも子供達に気軽に立ち寄ってもらえるようにしたいと思います。
2.何をどうすべきか知っていること。これが分からなくなったとき、大人でも手が止まります。分からない問題は技術的なものかもしれません。これはどう簡単に理解して覚え, 身につけるかという問題で、それこそ塾の本分です。最終的には「自分で当てをつけて調べる」ところまで行けば、八割がた塾の役割は終わったようなものです。
分からないものは、進路や将来の問題かもしれません。これを解決できるのは本人だけです。でも、人に話を聞いてもらい、相談するだけで解決することがあるのも大人は往々にして知っています。ですから、助言はもちろん、時間ある限り、寄り添って悩みを聞き続けたいと思います。